アメリカの医学研究分野しか知りませんが、参考までに。
ポスドクから教授までの道のりが厳しく、競争が激しいから、疲れてしまうことが理由だと思います。
アメリカの場合、ポスドクの定員がないので、研究費が潤沢な研究室なら室長の判断でポスドクを何人でも雇うことができます。
ポスドクの給料はNIH基準の税込4～5万ドル。大卒・修士卒のシニア・テクニシャンのほうが給料が高くて待遇がよい場合もあるくらいの安月給です。
ロスアラモスのように1000万円を超えるところは本当に稀です。
ポスドクは研究者見習ですし、有名な研究所は世界中からポスドク希望者が殺到するので、雇用後５年以内に実績が出せないと、もう要らないとリストラされることもあります。
ポスドクで自分でグラントを幾つか獲得すれば、すぐに自分の研究室を開くことができます。
ただし、そこからテニュアまでの道のりが非常に険しいです。
まず、研究所に決められた額のオーバーヘッド代をグラントから払わねばなりません。これがめちゃくちゃ高いです。
そして、自分のグラントを使って、実験器具や実験材料を買い、ポスドク・テクニシャン・秘書の給料を払って研究室を運営します。
研究者というよりも経営者です。
民間企業に研究を売り込んで資金提供を取り付ける、多くのグラントへ応募して切らさない、科学論文を書いて発表する、学会や講演会へ出て顔を売る、ポスドクや院生の論文指導をする、などが主な仕事になります。
自分で実験するのではなく、ポスドクやテクニシャンを大量に雇ってお尻を叩いて実験を進めなければならないんです。
日本の研究者は職人タイプが多く、自分でベンチに向かわないとストレスが溜まる人もいるみたいですが。
グラントが切れたら、研究室もなくなります。
リストラされたポスドクや研究者は、民間の関連企業へ移る人が多いです。
PhDがあれば、中途採用でも就職は難しくないです。PhDの初任給は8万ドルから。10万ドル、15万ドルを超える人はザラにいます。
ただ、民間企業では自由な研究はできなくなりますし、利益の出る結果を迅速に出すことを求められ、アカデミックよりも締付けが厳しいです。
もしくは、管理職として、若手や部下を管理する道を選ぶかです。
こっちでも競争なんですね。
目に見えないですが、アジア人差別がありますし、同国人で固まって日本人研究者を排除する研究者もいます。
20代になってから渡米して英語が完璧になる人は少ないので、一生涯、語学コンプレックスにつきまとわれます。
アメリカは大学の学費がバカ高いので、子どもの成績が振るわないと将来が心配になります。
医療費も高いので、老後の生活が不安になります。
アメリカは医学研究者用にJ-1ビザを作って門戸を広く開いているので、世界中から優秀な研究者が集まります。
特に途上国から来た研究者は、帰国できるアテがないので、気迫が違います。
その中で揉まれていると、自分の限界が見えてくるのでしょう。
研究者に限らず、毎日が競争というアメリカの生活を何年も続けると疲れてきて、帰国を考える人が増えてきます。
ノーベル賞受賞者の利根川教授ですら日本へ帰国されましたよね。
日本もいろいろ問題はありますが、日本の社会のほうが緩いと思います。
国立大学の科研費は昔に比べてずいぶんと増えましたよね。私立はまだまだですけれども。
外国人研究者としてアメリカで生き抜くには、人並み以上の頭脳とコミュニケーション能力と要領の良さが必要なんです。
日本では、競争心をむき出しにしたり、影で陥れたりする人が少ないですし、語学コンプレックスに悩まされることもありません。
まあ、日本のコネがなくなって、帰りたくても帰れなくなった人もいますがね。
